お金というのはいろんなものに交換できますが、お金自体には実は何の効用もありません。
交換して始めて価値が表出するというものです。
お金をを欲しがるのは人間の性で仕方がありませんが、なぜ人はお金を欲しがるのでしょうか?
いろんなものに交換できる財産(例えばお金)を持っていることは、どんな価値をその財産に付与するかの選択権が財産の所有者に与えられているということです。
たくさん持っているとそれだけ選択肢が増えるということです。
なので、ただお金が欲しいというのは、選択肢を多く欲しいというだけであるので、本当は何に使うか? の方が実は重要なのではないかと思います。
今回は、タイの北斗七星に関する話です。
財産を何に使うか? という視点が欠けていた男の話でもあります。
タイの話なので、仏教の説話になっています。
それではどうぞ
Contents
ดาวจระเข้とは
タイ語で北斗七星は「ดาวจระเข้(daaw cɔɔrakhêe ダーウジョーラケー)」と呼ばれています。
日本では北斗七星の形は「ひしゃく」ということになっていますが、タイではワニです。
「ดาว ダーウ」は星で、「จระเข้ ジョーラケー」がワニという意味です。
どちらも「水」に関係したものですが、なぜタイではワニの星と呼ぶのでしょうか?
実はこれには一つの物語があります。今回はこの物語を紹介したいと思います。
それではこのワニにまつわる物語をどうぞ
ワニの星の物語
昔、あるところに男がいました。
彼は財産を持っていましたが、子供もいません。
自分が死んだらこの財産はどうなってしまうのかを心配していました。
そこで
「自分が死んだら、この財産はどうしたらいいんだろう?」
と妻に尋ねると
「心配しないでください。親のいない子供に分け与えたり、本当に困っている人にも分け与えたりしますから」
と明るく答えるのです。
そうです。彼の妻は男とは違って気前のいい性格だったのです。
しかし、男はこの妻の返答にますます心配になります。
そんなことを言う妻は、自分の財産について真面目に考えてなどいないと思い、誰とも口を聞かなくなってしまいました。
そんなことがあってから2週間ほど経ったある日、男は妻にこう言います。
「腕のいい大工や職人を探してきておくれ」
と妻に言いつけます。
何のために大工や職人が必要なんだろう? と妻は疑問に思い、男に問いただしますが、男は
「いいから何もきかないで連れてきなさい」
と妻の心配もよそに命ずるだけです。
仕方がないので妻は、町で大工と職人の二人連れてきました。
男は二人に家の前を流れる川に桟橋を立てるように命じます。
桟橋が完成すると、男は桟橋の柱の根元に自分の金銀財宝を埋めたのでした。
こうすることで、自分の財産を妻にも誰にも知られることがなくなり、男は少し安心するのでした。
男はその日以来、食事や休憩することも忘れて、自分の財産が埋められている桟橋を来る日も来る日も用心のために見守っています。
そんな夫を心配した妻は、男に
「少し休んで、食事もちゃんと摂ってください」
と懇願しますが、男は聞く耳を持ちません。
そうこうしている内に、とうとう男は病気になってしまい、それが原因で死んでしまいます。
そんな男なので、死ぬ間際まで自分の財産が気になって仕方がありません。
とうとう成仏は出来ずにワニに生まれ変わってしまいました。
男の生まれ変わりのワニは、死んだ男の財産の埋められている桟橋の周りをぐるぐると泳ぎ回っているだけです。
決して人に危害を加えることのないワニでした。
そんな不思議なワニをみた男の妻は
「きっとあのワニはあの人の生まれ変わりに違いない」
と確信を持つようになります。
死んだ自分の夫が何かを伝えようとしていると思った妻は、ワニの泳いでいる桟橋のたもとを探すように使用人に命じます。
すると死んだ男の財産が埋まっているではありませんか。
そんな自分の財産が気にかかってワニに生まれ変わってしまい、今だに財産に執着している夫の霊を不憫に思った妻は、この財産をお寺に寄付することを思いつきます。
そうすることで夫が成仏できるようにと願ったからです。
夫である男も流石に妻の願いを知ると改心します。
妻が舟で寺院まで寄付に行くのに一緒についていくことにします。
しかし、寺院は男の家からはだいぶ距離のあるところにあります。
泳ぎ着かれたワニはとうとう寺院に着く前に力尽きてしまいます。
ワニは自分が息を引き取る間際に
「僧侶に金銀を差し出す前に、ワニが口に蓮をくわえている絵を一緒に差し出す様に」
と妻に頼んでいたのでした。
おかげで男は無事に成仏することが出来ます。
そして、寺院の僧侶は、皆にこのことを伝えるために空にワニの形をした星座を作ったということです。
最後に
最後はワニの星座を作ってしまうほどのパワーをもったお坊さんがいきなり登場して幕を締めますが、まーこんな話があるそうです。
結局は、妻の勘違いで男は救われることになったのですが、結果オーライです。
この物語には輪廻や成仏、僧侶の力など仏教の要素が詰まっています。
最初に空を見上げて、北斗七星がワニの形に見えた古代のタイ人がいたのは間違いないでしょう。
その後に仏教の説話をくっつけてこの物語が出来上がったというのが実際のところなんでは? と心の汚い僕なんかは邪推してしまいます。
いずれにせよ、財産は用法・用量を守って正しくお使いください。
そんなものないですけど…(T_T)
おわり
参考資料:「アジアの星物語」