バンコクのセンセープ運河は王宮のあるラタナコーシン島から東の方に延びている運河です。
ここはバンコク市民の足でもあるボートが走っていて、利用された方も多いのではないでしょうか?
今回紹介するタイの昔話はこのセンセープ運河にまつわる話です。
昔話と言うより伝説のような話です。
それではさっそく物語をお楽しみ下さい。
Contents
ホークローンの神様
むかしむかし、二人の神様がいました。
一人はホークローンの神様で、生まれ故郷のバンコクに住んでいました。
もう一人の神様はセンセープ運河のセンセープの神様です。
二人の神様はいつも互いに行ったり来たりしするほど仲が良いのでした。
ある日、センセープの神様はバンコクにいるホークローンの神様を訪ねに来ました。
そしてあれこれと良かったことや悪かったことをとりとめもなくおしゃべりして楽しんでいました。
そうこうするうちに、センセープの神様はホークローンの神様にサガーで何局か遊ばないかと持ちかけたのです。
※サガー:ボードゲームの一種
「わたしたちは長い間一緒にいるけど、そういえばサガーで対局したことがないですね。ねぇ…ちょっとやってみませんか?」
とセンセープの神様はホークローンの神様を誘ってみました。
「いいのかい? そのサガーってやつで遊ぶことは賭け事の一つと思うんだが…もしわたしたちが賭け事をするっていうなら、それは良くないことじゃないのか?」
とホークローンの神様は自分の考えを述べました。
「あぁホークローンの神よ! わたしは…ただただ楽しみたいだけなのに、それにわたしたちに賭けるものなんか何にもないじゃないか。誰にも咎められたりはしないさ」
とセンセープの神様は少々ムキになって説得しようとしましたが、どんなに説得してもホークローンの神様は頑なに自分の意見を譲ろうとはしません。
そこでセンセープの神様がホークローンの神様を嘲って
「もしかしてわたしとサガーで勝負して負けるのが怖いのではないか? でなければそうとう弱いのでは? だったらわたしの駒をあなたより少なくして勝負してもいいですよ。どうです? わたしは全然問題ないですよ。それでも勝てそうにないのなら無理にする必要はありませんよ」
などどセンセープの神はホークローンの神に意地悪な言葉を投げかけます。
ホークローンの神は軽蔑を含んだ強烈な売り言葉に対してとうとう
「あぁわかったよ! あなたとわたし、どっちが強いかわかるまで対局すればいいのかい? そうすればあなたはわたしにからんでこなくなるってことなんですね? いいですよ、公平な条件でやってやりますよ!」
結局、ホークローンの神様は売り言葉に買い言葉で、センセープの神様と勝負をする羽目になってしまいました。
その上さらに
「何にも賭けずにただ勝負するだけなんて何が楽しいっていうんだい? 勝負するんならどのみち何か少しは賭けてみないと! 文句はあるかい?」
なんてことをつい言ってしまいました。
センセープの神様はそれを聞いて、逆にホークローンの神様をからかって言うには
「何をかけるっていうんだい? もしお金や財宝でってことならそれは結局賭け事になるんじゃないかい? それで満足なのかい?」
さらに続けて
「でも別のものってことなら神だからといって、特に賭けるってことを気にする必要はないんじゃないかな? そして神の名に恥じることもないって寸法さ!」
とセンセープの神様は自分の考えを言いました。
「それならお金を賭けるのはやめましょう。負けた方は何か有益な役立つものを勝った方に譲るっていうのはどうだろう? そして勝った方は役に立たないことや面倒に思っているものを相手に渡して管理してもらうっていうのはどうだい?」
とホークローンの神様は提案しました。
この提案に対してセンセープの神様は特に何も考えずに承諾しました。
というのもセンセープの神様はサガーで遊びたくて遊びたくてたまらなかったからです。
そして二人の神様がサガーの勝負をした結果はというと…
ホークローンの神様が2局とも勝利したのでした。
ホークローンの神様はセンセープの神様に渡すものと、センセープの神様からもらうものは何がいいかを、しばらくじっと座ったまま考えていました。
そしてホークローンの神様がついに
「勝負は決まりましたね。あなたに渡すものを考えたんだが、蚊をあげることにした。なのでしっかりと世話をして下さい。」
とホークローンの神様はセンセープの神様に伝えました。そして
「それからわたしの欲しいのは犬だ。犬は吠えるので、バンコクの人たちを泥棒から守ってくれるだろう。これでどうだ?」
センセープの神様はこれを聞いて悔しくてたまりません。
自分は今後ずっと蚊の世話をしなければならない上に、犬をホークローンの神様に渡さなければならないからです。
しかし今さらどうしようもありません。
自分がホークローンの神様を誘って勝負を望んだ張本人だからです。
このとき以来センセープ運河は蚊だらけになり、一方、バンコクでは至るところで犬を見かけるほどにたくさん居着くようになったということです。
補足説明
今回紹介した話の中に出てくる「バンコク」というのは現在のラタナコーシン島のことです。
今でもセンセープ運河には蚊が多いですが、犬の方はラタナコーシン島だけでなく、現在のバンコク都全体に生息地は広がっています。
これは人の食べ残しなどが目当ての犬としては、人のいるところならどこにでもいるといった感じでしょうか?
この物語が出来た時期にはまだラタナコーシン島以外では人はまばらに住んでいるだけだということがわかります。
この物語の主人公であるホークローンの神様はラタナコーシン島の南に祀られています。
興味をもったのなら訪れてみてはいかかでしょうか?
(参考資料:「นิทานพื้นบ้าน ภาคกลาง」 CHOMROMDEK)