何か不幸な出来事が起こったとき、ありのままに受け止めるるのは相当精神力が強くないと耐えられないものです。
こんな時には、どういった方法で対処しますか?
大抵の場合、そのおこった出来事に対して何らかの意味を付け加えて気持ちの整理をすると思います。
「この出来事にはきっと何か意味があるに違いない!」
みたいなことしませんか?
今回紹介するタイ語のことわざは、こんな大変不幸な目に遭った時に使えるものです。
タイならではの表現方法なのかもしれません。
それではどうぞ
Contents
ฟาดเคราะห์
運勢を叩く
発音:fâat khrɔ́
- ฟาด:強く叩く(ムチ・手などで)
- เคราะห์:運、運勢
今回はことわざというより、単なる慣用的な表現だと思います。
一応便宜的に「ことわざ」としていますが、その辺はご了承下さい。(笑)
意味は悪い運勢や厄などを消滅させるために、自分の体から悪い邪悪な何かを追い払うということです。
「เคราะห์」は、この単語単体でも悪運や悪い運勢という意味があります。
とだけ言われてもよくわからないと思います。
意味としてはまぁそうなんですが、使われるシチュエーションとかも加味して考えないと使える言葉にはなりません。
一般的には「厄除け」とか「厄払い」と訳されているかと思いますが、少しだけ違います。
おそらくこの訳だと上手く意味が取れない場合もあるはずです。
そもそも厄除けなどは、あらかじめ何かの行為をすることによって、その後に起こる悪いことを避けるというものです。
それに対してこの「運勢を叩く」という表現は、すでに起こったことに対して使うことも出来るのです。
これは何か悪いことが起きた時に、最悪の自体は避けることができたからと内心で納得するといった感じです。
この納得するといったことを強く意識することが重要です。
運命だと思って気持ちにケリをつける。良かったんだと思うようにする。といった感じの意味です。
まー後付けの方便です。
方便:ある目的を達するため便宜的に用いられる手段。てだて。 「うそも-」 ー 引用:大辞林 第3版
日本語の表現に「不幸中の幸い」といったものがあり、この「大変だったけどまぁ大事に至らなくてよかった」といった感覚に近いものかもしれません。
「不幸中の幸い」がどちらかというと他者から言われる言葉に対して今回の「運勢を叩く」は自分に言い聞かせるものといった感じです。
そもそもこのことわざの由来は、バラモン教の儀式だと言われています。
不運を体から追い出す儀式です。
この儀式では、不運を追い出したい人(つまりは施術される人)は痛みを伴います。
というのも、この儀式をする人はサーイシン(สายสิญจน์)という細い白い木綿の糸を束ねたもので、施術する人の胴体を何度も叩きます。
ワットでお坊さんが手首に巻いてくれる、ミサンガのような白い糸のこともサーイシンと呼びます。
ちなみに巻くのは男性は右手首、女性は左手首です。
サーイシンの意味が神聖な糸という意味なので、儀式ではいくつも束ねたものだと思います。(すいません、見たことはありません)
なので、こういった儀式を行った対価として不運を追い出せると信じていたそうです。
糸を束ねたものなのでそれほど威力はなさそうですが、何度も叩くので、死に至る危険性もあるとのことだそうです。
どんな時に使う?
ある事態や状況をなかったことにする、または厄や不運を避けた結果として別の「何か」を失う時に使います。
儀式として故意に何かを失う時にも使いますが、現代ではむしろこの用法で使うことはあまりなく、「失ったものは何か大きな損失の対価だった」と考える時に使います。
大難が小難に変わった! みたいな場合です。
悪いことは有ったけど、まぁ良かったんじゃない? 本来ならもっと悪いことが起きていたはずだからと自分に言い聞かせるニュアンスです。
具体的使用例
ソムチャイ君は現在、大腿部の骨折で入院しています。
骨折に至った話は先週に始まります。
その日の翌日は花子さんの誕生日でした。
ソムチャイ君は花子さんと行くレストランの予約をしようと思い、花子さんに訪ねたのがすべてのコトの始まりです。
ソムチャイ君「明日、ファーは何料理が食べたい?」
はー? ファーぁ?(怒)
アタシはいつからファーになったわけ?
と名前を間違えて呼ばれた花子さんは烈火のごとく怒りだします。
自分の誕生日の食事です。名前を間違ったソムチャイ君が悪いのは間違いなく、花子さんが怒るのももっともです。
しかもソムチャイ君、あろうことか花子さんの誕生日のことについて、昔の彼女の名前を間違って言ってしまったのです。
「あ、イヤ…間違えた(笑)」
「(笑)じゃねーよ!」
と同時に
ばきっ!
花子さんの右下段蹴りが見事にソムチャイ君の左足大腿部にクリーンヒットします。
で現在入院中なのですが、ソムチャイ君は骨折だけで済んだのは運勢を叩くことだったと思っています。
下手をしたら命の危険があったからです。
花子さんはソムチャイ君と付き合う前には、彼のことを少しも興味がなかったので、ソムチャイ君の昔の彼女の名前なんてすっかり忘れていたのが幸いでした。
おわり