今回紹介するタイ語のことわざは
「お前ごときが私に勝てると思ってるのか?」
とか
「思い上がるな! お前なんかの出る幕じゃない!」
みたいな、結構映画・ドラマに出てきそうな台詞です。どっちかといえば漫画・アニメの方が多いかも? といった言葉です。
日本の作品のタイ語の吹き替えや字幕だときっと多用されているはずです。
僕は日本語で見るから「はず」としか言えませんが、そうに違いありません。
そんな感じのことわざです。
それではどうぞ
Contents
วัดรอยเท้า
足跡を測る
発音:wát rɔɔi tháaw
- วัด + (名詞):(長さ・広さ・量・熱など)をはかる、測定する
- รอย:(目に見える)跡、痕跡
- เท้า:足(足首から下の部分)
「วัด」は名詞としてはお寺の意味ですが、後ろに名詞がくると動詞になって「測定する」という意味になるので構文をしっかりと見て下さい。
物の長さや重さ、大きさといった具体的な量だけでなく、「知識」といったものを「測定する」場合にも使われる動詞です。
「รอยเท้า」は直訳すると「あしあと」で、道に靴の跡が残っているといった意味の足跡の意味です。具体的にあるものを指しています。
日本語の「足跡(そくせき)」といった比喩的な意味で使う場合は「รอย」だけで大丈夫です。
このことわざの意味は自分より力のある相手に反抗したり、相手を見下すことです。
簡単に言うと倒すべき相手の力量を推し量るといったことすることです。
いずれにしても自分より目下の存在がこういうことをするのは良くないことであり、失礼なといったニュアンスがあります。
なんで足跡?
ってなると思いますが、このことわざの出自は由緒正しい作品からです。
ご存知ラーマキエンの中の一場面より出てきたものです。
トーラピーが自分の父親を殺そうとする時に父親のトーラパーの足跡をずっと比べていたというくだりがあるのです。
ラーマキエンの中のトーラピーの話はいわゆる「父親殺し」についてなのですが、詳しくはこちらをどうぞ

で、ある時、父親の足跡が自分と同じだったので、父親に戦いを挑んだのです。 …?
剣の踏み込みとか、脚さばきとかでしょうかね?
とにかく、その父親の足跡を見ることによってその力量がわかったという話です。
結果はというと、まぁ「父親殺し」の話ですから…
こういった話が背景にあって、自分より力のある(父親トーラパー)に対して立ち向かって戦いを挑むか、それとも相手の力を侮って、「いつでもヤれる」的な感じで特に努力もしないといったことを意味する表現になったということです。
戦いを挑むのと、軽視して何もしないことに共通性がないように感じますが、下のものが上のものを値踏みするということは失礼なことなのだと思います。
いずれにせよ力さえあればいつでも倒すつもりだ! ということを言ってるようなものですから。
どんな時に使う?
自分よりも強い相手に対して、いつでも対等に戦える! と確信するほどに思い上がっている人に対して使います。
端的に言えば、思い上がっていて自分が見えてない人をたしなめる時に使ったり、「お前ごときがなめるな!」的な時にも使ったりします。
行為をしようとする人が自分を過信している場合、もしくは相手を侮っている場合の2パターンということです。
具体的使用例
ある時、ソムチャイ君は格闘ゲームで遊んでいました。もちろん選んでいるのはムエタイボクサーです。
ソムチャイ君は実際の格闘技は全然なんですが、ゲームだと結構強いんです。
そんな楽しそうに遊んでるソムチャイ君をみて花子さんが
「ちょっと私とやってみない?」
と対戦の申し込みです。
「いいですけど、花子さん出来ますか?」
「はー? 足跡を測るようなこと言わないで! 私を誰だと思っているの?」
「えー、花子さんです」
「…う、うん。まぁいいわ。じゃあ早速対戦しましょ!」
とゲームを始めました。
花子さんもそこそこ上手く、結構いい勝負だったのですが最終的にはソムチャイ君の勝利でした。
花子さんは
「まだ慣れてないかも。もう一回いいでしょ?」
「いいですよ」
とソムチャイ君。が、またもやソムチャイ君の勝ちです。
「結構強いわね!」
という花子さんに、ソムチャイ君は覚えたての構文を使って答えます。
「はい、たとえ何回しても花子さんは私に勝てません」
少し難しい言い回しの日本語を適切に使えたソムチャイ君は、かなり得意げな顔をして花子さんを見つめます。
状況が状況なので、花子さんはソムチャイ君が日本語の上達を自慢しているとは1ミリも思いつきません。
「ほー、それを足跡を測るって言うんじゃなかったっけ?」
と不敵に笑う花子さんをみたソムチャイ君は、自分の発した内容を思い出してハッとします。
「じゃあもう一度対戦しましょうか」
という花子さんの言葉にうなずくしかないソムチャイ君です。
今度は花子さんが終始優勢です。
ソムチャイ君はゲームよりの花子さんの顔色のほうが気になって、全然ゲームに集中できません。
仮にソムチャイ君がワザと負けてこの場を終わらせようとしても
「何ワザと負けてんのよ! バカにしないで!」
と言われるのは目に見えてるので出来ませんが、ゲームに集中できていないこの状況は却って
(ちょうどいい感じで上手く負けられるかもしれないなぁ)
と考えていたその時です。ソムチャイ君は痛恨のミスをしてしまいます。
ソムチャイ君の「しまった」という小声が聞こえたと同時に
今だ!
と花子さんが叫びます。と同時に
バキッ…
花子さんは勢い余ってコントローラーを握りつぶしてしまいました。
花子「あっ」
ソムチャイ「あっ」
花子「あー、ゴメン、ゴメン、壊れちゃった。あはははは」
ソムチャイ「ははは…」
とソムチャイ君は笑うしかなかったのですが、内心は
(コントローラーだけで済んで良かった)
とホッとしたのでした。
おわり