他の人には見えないのに、自分だけが見えるということってよくありますよね?
いや、ないです。(笑)
今回紹介することわざは、少しオカルトチックなものです。
違いました。(笑)
まー表現の方法が少し(??)って感じですが、二人の関係性を示すものです。
タイ人はどんな(??)ってなる表現方法をするのでしょうか?
それではどうぞ
ไก่เห็นตีนงู งูเห็นนมไก่
鶏には蛇の足が見え、蛇には鶏の乳が見える
発音:kài hěn tiin ŋuu ŋuu hěn nom kài)
- ไก่:ニワトリ、鶏
- เห็น:…を見かける、偶然見る
- ตีน:足首から下の部分=เท้า(tháaw)
- งู:ヘビ、蛇
- นม:乳房、おっぱい、ミルク
このことわざの意味は、お互いに手の内を知っているという状態を表しています。
フツーに考えるとこのことわざはおかしいですよね?
蛇に足? 鶏におっぱい?
ってなります。
ヘビは手足がないのが特徴です。あるなら、それはトカゲと呼びます。
そして、ニワトリにおっぱいがあるなんて話きいたこともありません。
ニワトリは鳥類です。鳥類tは卵生で、当然おっぱいはありません。
というか、そのはずです。
このことわざの意味は、お互いに相手の秘密を知っている二人がいて、その二人が策略なり、悪巧みをねっていたりと言った場合に、これを互いに知っている状態を言います。
というわけで互いに手出しができないわけなんですが、こういう意味だとすると、実は…
ヘビに足があって、鶏におっぱいがある!
ってことですよね?
このことわざがそもそもなんでこんな表現になったかはわかりません。
ただ、スントーン・プー(สุนทรภู่ sǔnthɔɔn phûu)という19世紀のタイの国民的大詩人に「พระอภัยมณี(phrá aphaimanii プラ・アパイマニー )」という作品があります。
この作品の中に「鶏には蛇の足が見え、蛇には鶏の乳が見える」という一節があるので、少なくともこの頃には使われていたことわざです。
どんなとき使う?
双方、どちらも相手に勝ちたいと思っている状況の場合、相手の策略をすでに知っていて、互いに手を出すことが出来ない時に使います。
手の内を知って、膠着状態に陥っている時です。
表面上は見えない、足や乳が見えているということです。
また、相手の秘密を知っている、つまり相手のことなら何でも知っているという場合にも使われることわざです。
具体的使用例
花子さんは一時帰国で日本にいます。
今回の帰国はソムチャイ君と一緒ではありません。
というのも先日、ソムチャイ君がキレイな女の人と楽しそうに歩いているのを偶然見かけ、そのことで一方的に怒りまくった挙げ句、勢いで日本まで帰国したからです。
むしゃくしゃしている花子さんは、日本にいた時よく通っていたオカマバーで、イヤーな気分をはらそうと今日は新宿まで来ています。
入店するなり
「あら、花ちゃん、久しぶり元気だった?」
とママさんはご無沙汰していたにもかかわらず、暖かく迎えてくれます。
花子さんは
「何年ぶりかしら?」
と早速お酒を注文し、かなり速いペースで飲んでますが、なかなかむしゃくしゃした気分は収まりません。
席に付いてくれたサクラちゃん(本名源次郎、57歳)も心配して
「花ちゃん、ちょっと飲みすぎじゃない?」
と忠告してくれますが
「何いってんの、アタシはどんなに飲んでもアンタみたいに太んないから大丈夫」
と返事します。花子さんの口の悪さは昔から有名で、それくらいではサクラちゃんはびくともしません。
ただ、花子さんが飲みすぎなのは間違いないので、楽しそうな話を振ることにしました。
「花ちゃん、今タイに住んでるんでしょ? 彼氏できた?」
あーサクラちゃん、やってしまいました。今一番してはいけない話題です。
「あーーん? 彼氏だぁ?」
ちょっと花子さんの口調が変わったのをすかさずキャッチしたサクラちゃんは
「いやー、もしいたら写真でも見せてもらおうかと…」
サクラちゃんの心拍数は一気に上昇しています。
「写真だと?」
とスマホを取り出し探していますが、かなり苛ついている上に、酔いも回って中々操作がうまくいきません。
「いーよいーよ、大丈夫だから。今度またゆっくりね」
「いや、あの腐れ男の顔を拝ませてやる!」
と花子さんが目を座らせながら返事するのを見て、この話はマズイと思ったサクラちゃんはすかさず話題を変えます。
「そーいえば、今タイからオカマのコンテストに出席するってお友達が来てるのよ」
というサクラちゃんに
「ふーん」
と気のない返事をしながら、必死に写真を探してます。
「オームちゃーーーん、ちょっといい?」
とサクラちゃんがそのタイ人を呼びます。
花子さんが
「あった! こいつよ!」
とソムチャイ君と二人で笑顔で写っている写真をサクラちゃんに見せたと同時にオームさんが席にやってきます。
オームさん
「ソレナンデスカ?」
と花子さんの写真を覗き込んだ瞬間、顔がこわばります。
花子さんも
「はー?」
とオームさんの顔を見た途端に般若の形相に早変わりです。
そうです。ソムチャイ君と歩いていた女(?)こそ、目の前にいるオームさんだったのです。
まずは花子さんの先制攻撃です。
「なーに? アンタ、おかまなの? アイツは知ってるの?」
と軽くジャブです。
黙っているオームさんを見て、完全勝利を確信した花子さんでしたが
「アタシ、明日コンテストなんだけど、素っ裸にならないように注意します」
と不敵な笑みを浮かべてます。
一瞬何のことか分からなかった花子さんですが、大学時代の黒歴史のことだと理解するのにそれほど時間はかかりませんでした。

「サクラ! あんたしゃべったの?」
とサクラちゃんに攻撃の矛先が変更します。この話題を出すことはご法度なのは店では常識だったはずです。
「いや、ちょっと面白いかと思って…」
というサクラちゃんに対して
「はーっ? 何が面白いって? 面白いのはアンタの顔じゃない!」
「ちょっと、ヒドイ! それは言い過ぎだわ」
「何が “言い過ぎだわ” よ。豚みたいな体型したオッサンがよく言うわよ!」
とうとうサクラちゃん(57歳戸籍上オッサン)は泣き出してしまいました。
「落ち着いてください。オリンピアさん」
それを聞いた花子さん形相はますます恐ろしくなり
「アンタ、今度その名前で呼んだらただじゃ済まないからね」
とすでに片手はオームさんの胸ぐらを掴んでいます。
騒ぎを聞きつけたママさんが駆けつけ
「花ちゃんいい加減にして! ちょっと面白い話と思ってしただけじゃない! 暴力はダメ」
というママさんに対しても
「はー? アンタも同罪か? そのかつらを取って光る頭を見せた方がよっぽど面白いんじゃないの?」
ママさんは頭を抑えて、泣きながらトイレに駆け込みます。
今夜の花子さんは、猛毒を含んだ言葉が次から次へと出てきます。
二人は取っ組み合いの大喧嘩で、とうとう店は半壊してしまいました。
その後、花子さんは半年間、店を出禁になり、顔中アザだらけになったオームさんは翌日のコンテストは欠場しました。
タイに帰ってからの二人は時々鉢合わせをすることもありますが、鶏には蛇の足が見え、蛇には鶏の乳が見えるので、ソムチャイ君がいる時は作り笑顔で互いに会話をするようになったとのことです。
おわり