タイ人は基本的に歩くのが好きではありません。
ちょっとした距離でもタクシーを使ったり、モタサイ(バイクタクシー)を使います。
ましてや大荷物を抱えて歩くなんて、タイ人にとってはありえないことです。
今回紹介するタイ語のことわざは、そんなタイ人の価値観を表現しているものとも言えます。
それではどうぞ
Contents
บ้าหอบฟาง
阿呆が両手いっぱいにワラを抱える
発音:bâa hɔ̀ɔp faaŋ
- บ้า:気違い、気が変な(人)、頭がどうかしている(人)
- หอบ:(両手で)抱える
- ฟาง:藁、わら
今回紹介することわざの意味は、昔と今とでは変化してしまったことわざの一つです。
先に単語の補足説明をします。
まずは「บ้า」なんですが、これは余り他人に対して使わないほうがいい単語です。
気が変なとか、頭に問題がある(人)って意味です。もっと言えば精神に異常をきたしたり、常軌を逸している状態です。
端的にいうとキチガイです。
かなり親しい間だと冗談めかして使うこともありますが、この単語単体で使うには問題があります。
冗談ぽく使う場合でも、ちょっと「お里が知れる」的な感じもあるので、あえて使う必要もないでしょう。
こういう直接的な意味以外にも何かに夢中になってるとか、ハマってる状態や、そうなっている人の度を超えた状態に陥っていることを指して使うこともあります。
日本語でも〇〇キチガイとか〇〇バカとか言った感じです。
釣りバカとか釣りキチとかのキチとかバカです。(なぜ釣りばかり?)
この辺の感覚は日本語もタイ語も英語も同じなんでしょう。
取り合えす「そんな意味だ」ということを知ってるくらいでOKな単語です。
「หอบ」という動詞ですが、単に買い物袋とかを両手に持っているといった状態とはちょっと違います。
なんと言うか、両手で荷物を抱え込んでいて、一見すると
荷物が歩いてる!! (゚∀゚)
と見間違えるくらいの状態を指しています。
イメージできますか? まーそんなレベルの「抱える」です。
「ฟาง」は籾を脱穀し終わった後のワラです。
以上のことを踏まえて、このことわざは何でもかんでも目についたものを欲しがる人のことを意味していました。(過去形です)
何でもです。価値があろうとなかろうと関係ありません。
が、この意味では現在は余り使われていません。(全くゼロというわけではないようです)
今は、物をいっぺんにたくさん、乱雑に持っている様子を意味しています。
そういう人を「アホ」と言うのもちょっとキツイとは思いますが、まーことわざなんで許されるのでしょう。
どんなとき使う?
身なりがとても乱れた人に対して使います。
乱雑で、ごちゃごちゃしているタイプの「乱れた」です。
ボロボロだったり、きちんとしていない様子です。
過剰に装飾品を身に着けている場合とか、なんだか統一感がなくバラバラな感じとかにも使います。
タイは意外と「見た目」で判断する傾向の強い社会なので、こんなことを言われないように注意したいものです。
ま、逆を言えば「見た目」さえしっかりしていれば信用はされるんですけどね。(笑)
具体的使用例
先日、ソムチャイ君は花子さんに
「アンタって本当にファッションセンスないわよね!」
と言われたのを気にしています。
来週も花子さんとデートの約束はしていますが、見返してやろうと思っています。
そのことをお母さんに話すと
「スーツとか着ている男の人ってステキよね♥」
と教えてくれます。
スーツを着込んで鏡の前に立つソムチャイ君ですが、なんかイマイチぱっとしません。
そこで友人に相談することにしました。
友人が言うには
「やっぱスポーツとかしてる男ってモテんじゃネ?」
といいます。
ソムチャイ君はスポーツとかは全然しないのでちょっと悩んでしまいますが、部屋にある野球帽に目が付きます。
鏡の前でスーツに野球帽をかぶった姿はなんか変です。
そんなこんなでデートの日が来ました。
花子さんは約束の場所に少し早めに着いてしまいました。
なんにもないところで、おじいちゃんが独り、日なたぼっこをしているような場所です。
「なんでこんなところで待ち合わせなのよ!(怒)」
とちょっとムッとしています。
そこへ颯爽とソムチャイ君の登場です。
最初はソムチャイ君と気が付かなかった花子さんですが、彼だとわかった途端にもう目が釘付けです。
ニコニコと近づいてくるソムチャイ君を凝視していますが、花子さんの顔色はどんどん青ざめてきます。
ソムチャイ君はスーツに野球帽、レイバンのサングラスを掛けて、首からデッカイ鎖を下げています。足元は今どき「どこで売ってる?」といったウエスタンブーツです。
手首にはトゲトゲの鋲のついたリストバンドがスーツの裾からチラチラと見え隠れしています。
あまつさえスーツの上には薄茶色の袈裟まで羽織っているといった始末です。
花子さん、開いた口がふさがりません。
そこへ母子連れが通りかかります。
小学校低学年とおぼしき女の子が
「あ、お母さん見て!」
とソムチャイ君を指差します。
そこにはソムチャイ君の友人が
「そういうの良くわかんないけど、オレの “トッテオキ” を使っていいゼ!」
と貸してくれた、萌アニメのキャラが大きくプリントされたTシャツです。
女の子は
「ねぇ、プリキュアだよ! よく見て!」
とネクタイで少し隠れているそのTシャツを指差しながら、お母さんの注意を引こうとしています。
仕方なくソムチャイ君を見たお母さんの顔が一瞬で険しくなったのは言うまでもありません。
すかさず女の子と顔を強制的にソムチャイ君の方からそむけさせ
「ダメ! 見ちゃいけません!」
と叱っています。
一部始終をみていたおじいさんが
「阿呆が両手いっぱいにワラを抱えとるな」
とぼそっとつぶやきます。
おじいさんに何か言われたと気づいたソムチャイ君が
「え、何ですか?」
とおじいさんに尋ねてる間に、花子さんはその場から急いで逃げ出したのでした。
おわり