冬の代表的な星座の一つにおうし座があります。
その一角にあるのが、今回取り上げるプレアデス星団です。
日本語で「スバル」ともよばれるこの一群の星ですが、「スバル」だけでなく、日本各地にいろんな呼び方があるそうです。
関東では「ムツラ」とも呼ばれますが、これは「六連」の意味で、このプレアデス星団が6つの星の集合と見ていたのでしょう。
一般的な視力のヒトには6から7つの星の集まりに見えるこの星団ですが、タイではどうなんでしょう?
この「スバル」に関するタイの物語を紹介します。
กระจุกดาวลูกไก่
タイ語ではプレアデス星団のことを「กระจุกดาวลูกไก่(kracùk daaw lûuk kài)」と言います。
「กระจุก」は束、集まり、群れと言った意味です。次の「ดาว」が星とか天体とかといった意味なので、合わせて「星団」という意味になります。
「ลูก」が子供、特に親に対しての子供という意味です。オトナの対義語としての子供おの場合は「เด็ก(dèk)」です。
「ไก่」がニワトリなので、子供のニワトリで「ひよこ」ということです。
タイ語でプレアデス星団は「ひよこ星団」というコトになります。
まーごちゃごちゃっと集まっている感じを昔のタイ人は「ひよこ」とイメージしたわけです。
というわけで、この「ひよこ」の星の群れに関するタイの物語があるので、簡単に紹介したいと思います。
ひよこの星の物語
昔、ある国に工芸から芸術から何でもこなすヒトがいました。
このヒトは王様に大変気に入られ、王の娘と結婚することになりました。
このヒトには一人の弟子がいました。この弟子は王様の娘と結婚する師匠を妬ましく思い、師匠が結婚する前に王様に謁見を申し出ます。
この弟子は自分のほうが師匠より優れていると思い
「王様の娘をぜひ私めにいただきたく存じます」
などと言って、王様の前で様々な術を披露します。
しかし王様は
「やっぱり師匠の方が優れているな」
と思い、弟子の申し出を拒否します。
そんな話をしていると、師匠がその王宮にやってきました。
弟子はミツバチに変身して、王女の花飾りに止まります。
そして師匠に向かって
「私を捕まえられるか?」
と言って、いきなり挑戦を申し込みます。
それから二人は、米に化けたり、雄鶏に化けたりと、さながら西遊記における二郎真君と孫悟空のような変身合戦を繰り広げるのです。
とうとうトラに化けた師匠は、驚いた周囲の人々に殺されてしまいます。
結局、師匠が死んでしまった今となっては、弟子が王女を妻とせざるを得なくなり、二人は結婚します。
そして月日は流れ、その弟子も寿命がつき死んでしまい、六羽のひよこを持った雌鳥に生まれ変わります。
その生まれ変わった家には獰猛な犬も飼われています。
この犬に食い殺されそうになった一羽の雌鳥とひよこは、ある老夫婦に助けられます。
結局ニワトリたちを譲り受けた老夫婦によって平和な生活をおくることになります。
しかし、一週間ほど経ったある日、あるお坊さんが老夫婦のもとで一泊することになりましたが、貧しい老夫婦にはお坊さんをもてなすほどには生活に余裕はありません。
そこで、老夫婦の妻のほうが、雌鳥を調理してお坊さんに供しようと言い出します。
「残った雛たちはどうする? 可哀想じゃないか?」
と最初は反対していた夫でしたが
「お坊さんをもてなせば功徳になる」
と妻に言いくるめられ、結局雌鳥を調理することにします。
グツグツと煮立った鍋の中に雌鳥を放り込むと、ひよこたちも、次から次へと自ら煮立った鍋に飛び込んでいくのでした。
そうしてひよこ達は、仏によって星になりました。
一方、前世で師匠に対しての裏切り行為をした元弟子の雌鳥の方はというと、ひよことは一緒になれず、少し離れたところで光っている星になりましたとさ。
多分、いろんな話がこの中には詰まってます
まーいつものようにツッコミどころ満載のタイの物語でした。
恐らく「雌鳥を追いかけて自ら命を絶ったひよこ」という部分がプレアデスに関する物語の核でしょう。
この核にいろんな理由付けのために付け足したか、あるいはそもそも複数の話だったものを一つに強引にまとめてしまったのではないでしょうか?
それくらい強引なストーリー展開です。
特に最初の王様の娘との結婚のくだりは、全く別の話だった可能性が高いと思います。
細かく見ていくと、工芸とか美術とかの名人であった師匠が、何で変身合戦で勝負を決めるのかも謎ですし、その師匠はその後、いっさい登場してません。(笑)
後半のひよこが鍋に飛び込む話も、修行僧のために自ら命を絶ったウサギの話が仏教説話の中にあります。
その辺の設定をちょこっといただいて…という可能性は高いです。
しかもお坊さんは今にも死にそうな感じでもなんでもありません。
お坊さんには食べて良いものといけないものが一応あります。
鶏肉って食べていいんでしたっけ?(笑)
雌鳥が犬に追いかけられる経緯もいまいちはっきりしませんし、そもそも生まれ変わっていきなり子持ち!
こんな感じで、サイドストーリーの回収はしていない、矛盾点の説明もないこの話は、確実に複数の話を無理やりくっつけたモノでしょう。
「あそこの星って6個くらいあるよね? ひよこみたいじゃない?」
っていうのだけがあって、残りはいろんな話を持ってきて星の話にまとめ上げたというのが実際のところなのではないでしょうか?
民間伝承の成立過程を見ているようで、その辺は面白いと思います。
とにかく、タイにもプレアデス星団に関するこういった話がありますよ的な話でした。
個人的には元になった個々の話の方に興味はありますが….そんな感じで今回はこの辺で。
おわり
参考資料:「アジアの星物語」