今回紹介するタイ語ことわざは、かなり有名なことわざで、通常のタイ語の授業でも出てくるくらいのものです。
このことわざは「釈迦に説法」みたいに訳すこともあります。
確かにこういった意味で使うこともなくはないのですが、メインで使われているのはちょっと違う感じなんです。
その辺りを詳しく説明しますので是非覚えて下さい。
以前紹介したことわざの中に、似た意味のものもあるので、この際なので併せて覚えると効率がいいかもしれません。

それでは
「そんな事知ってらぁ」
という方もいると思いますが、とりあえずどうぞ
สอนจระเข้ให้ว่ายน้ำ
ワニに泳ぎを教える
発音:sɔ̌ɔn cɔɔrakhêe hâi wâai náam
- สอน:…に教える、…を教える
- จระเข้:ワニ
- ให้:…な状態になるように~する
- ว่ายน้ำ:泳ぐ
「สอน」+ 名詞で、「誰々に教える」と、「何々を教える」と二つの意味があるのは大丈夫ですよね?
誰々に何々を教えるは…
「สอน」+「何々」+「ให้กับ hâi kàp)」+「誰々」になるのは大丈夫ですか?(笑) ちなみに「กับ」は省略しても大丈夫です。
ただこのことわざの場合では違います。
動詞 + 名詞 +「ให้」+ 動詞で、名詞に~して…させるという構文です。
なので、教えて、そして泳がせるという意味です。
「ให้」の後ろに動詞がきていることに気を付けて下さい。
「ให้」はタイ語学習の山場の一つでもあるので頑張ってマスターして下さい。
既にマスターしてるから問題ない! …それは失礼しました。
文法的なことはこれくらいにしてことわざに戻ります。
このことわざの意味は一つには「釈迦に説法」という単に自分より知識や技術などが上のレベルの人に説明してしまうという恥ずかしい事を表現したものということは冒頭で示したとおりです。
しかし、実際に使用されている場面はもう少し限定的なのです。
一般的にワニは凶暴な両生類で危険だと認識されています。
これはタイでも同じです。
ワニというのは泳ぎが非常に得意なので、人間なんかが水中でワニに遭遇したらひとたまりもありません。
この泳ぎの得意なワニにさらに上手くなるようにと泳ぎを教えることは、既にそのことへの知識が十分にあったり、既に熟練の域に達しているような人に改めて教えているというようなことになります。
こういったことから第一の意味が生まれました。
次に、ワニという動物が凶暴な動物という認識があるという話はしました。
そこでタイ人一般にはワニは「悪いもの」という認識があるようなのです。
そこで知識がある人、熟練した人に教えるというのは同じなのですが、その知識なり、技術なりの内容が問題となってきます。
ワニ=「悪いもの」に教えて、かつその「悪いもの」はこれから教えようとしている人より知識が豊富だったり、熟練した技術をもっていなければなりません。
そうです。その教えるものは「悪いこと」に限定されるのです。
そこから転じて既に不道徳だったり、悪事を働いているような人に「悪いこと」をするように勧めたり、アドバイスしたりするという意味になってきたのです。
現在ではこちらの意味で使うことが多くなりました。
どんな時に使う?
すでにあることについてよく知っていたり、上手だったりする人に対して、アドバイスしたり教えたりする人に使います。
その多くは不正や不道徳なことを吹き込んだり、教えたりすることを目的としています。
このことわざの主語はアドバイザーの方です。そのアドバイザーに対して
「ワニに泳ぎを教える」ような行為だ! とか、そんな人だといった感じで使うのです。
具体的使用例
花子さんの弟の太郎君が小学生の頃の話です。
太郎君はあまり勉強は出来ません。
しかしその日はいつもとは違いました。勉強できない太郎くんでしたが、テストで0点をとってしまったのは初めての経験だったのです。
さすがにまずいと思った太郎君は引き出しの一番奥に隠していました。
しかし掃除好きの母親に見つかってしまい、こっぴどく叱られている最中です。
「まったく宿題もしないでゲームばっかりしてるから…」
と母親の小言は止まりそうにありません。
「しょうがないわね。ゲームはしばらくお預け」
太郎君にとってゲームは三度のご飯より大切なものです。これを取りあげられてしまったら、生きている意味がないと思うくらいに重要なアイテムなのです。
太郎君とうとう気が動転して
うわぁーーーーーー
と走り出し、押し入れに閉じこもってしまいました。
母親が襖を開けようとしてもつっかえがしてあり、中に入ることが出来ません。
「だってアンタがちゃんと勉強しないからよ!」
と母親が何かを言うたびに襖を殴りつける太郎くんです。
「ちょっと止めなさい、太郎!」
とうとう襖は全て破られ、中が見えるほどになってしまいました。
母親と目が合うと、その横をさっと通り抜け別の押し入れに閉じこもります。
そして、母親が「ちゃんと勉強すれば…」
との言葉を聞くと再び襖を殴る音がします。もうこれ以上襖の被害が増大してはたまらないと思い
「わかったわ、ゲームは取りあげないから…」
と母親が折れて一件落着しました。
数日後
花子さんが母親に
「アンタ、就職どうすんの? いつまでもココには置いておかないわよ」
花子さん「うるさいなぁ アタシの人生なんだからほっといてよ!」
とちょっと険悪なムードです。
母親が去ったあと、二人のやり取りを見ていた太郎君が花子さんに言います。
「おねぇちゃんさ、押入れの襖、全部破るとかしたらお母さん諦めるって!」
と得意そうにアドバイスしています。
「アレ破ったのアンタなの?」
「そうだよ」と不敵な笑みを浮かべる太郎くん。
「アンタも酷いことするわね」
「それくらいやんないと分かんないんだよ! オレらの親は!」
そんな会話のあった翌朝のことです。
太郎君が学校に行こうと鉄製の玄関を開けようとすると
ギギギィー
ときしんだ音をさせ、なんだかスムーズな開閉ができません。
「お母さーん! ちょっとドアが変だよ!」
「あー、ごめんね。昨日花子が酔っ払って帰ってきた時に壊しちゃたのよー」
との母親の返事を聞きながら、マジマジとドアを見るとあちこちに凹みが付いています。
「今日中に業者さん呼んで直してもらうから…もう、ホント何度目かしら? 頼む方も恥ずかしいのに…」
との母親の愚痴を聞きながら、(ワニに泳ぎを教えるとはこのコトか…)と昨日の得意げな顔をした自分を想像し、顔が真っ赤になる太郎くんでした。
おわり