今から話す出来事を体験したことによって、僕はもう二度と高い建物の上層階には住まないと決意しました。
それほど怖ろしいバンコクの夜の体験談です。
この体験は僕だけに起こることではなく、どんな人にでも起こりうることなので、この体験をシェアして注意を促すべきと思いました。
今まで誰にも語っていなかった恐怖の物語(笑)をとくと堪能して下さい。
なんてことはない日常
その日はいつものように語学学校から帰宅して、ダラダラ過ごしていました。
雨がいつ降るかもわからないので、日が暮れる前に洗濯物を取り込みます。
僕の借りている部屋にはベランダがあり、洗濯物が干せます。建物の内側にあるので、少しの雨なら大丈夫なんですが、横殴りの雨だと一発でおしゃかです。
そんなベランダにはハトがよく侵入してきて、室外機の上でくつろいでいることも度々です。
ベランダの下には駐車場の屋根があるんですが、ハトのフンであふれています。
そんなこんなで洗濯物を取り込み、畳んで
「今日の仕事、おわり!」
とベッドで横になります。もちろん、いつものように大量の宿題があるのは言うまでもありません。
「早めに済ませて楽になろう…」
という僕の良心回路とはうらはらに、身体は動いてくれません。
「ま、明日の朝やればいいか!」
といつものように悪の心が勝利した日のことです。
僕の中で善と悪が戦っている間に、外はすっかり暗くなっています。
勝利の美酒
すでに夕食を済ませていた僕は、冷蔵庫を開け
「自分の好きな時に宿題をする! 飲みたい時に飲む! オレは自由だ!」
などど、わけのわからん理由をでっち上げて、軽く飲み始めました。
ここはタイです。もちろん氷は必須です。
「氷が先か、それとも…ビール?」
なんて英国紳士も真っ青になる難問に頭を悩ませながら次々とカラの瓶が増えていきます。
外は日が落ちてだいぶ経ち、まぁまぁ涼しくなってます。
事件発生
エアコンで冷え切った身体を温めようとベランダに出ることにしました。
外ではカエルがこれでもかっていうくらいに鳴いています。もはや公害の領域です。
ベランダに出た僕は、部屋の中の冷気が外にもれないように出入り口の窓を思いっきり閉めました。とその時です…
「カ…チャ」
背中の出入り口の方からなんとも嫌な感じのする音が聞こえてきました。
ベランダの外では相変わらずカエルの大合唱です。
僕の身体はそのまま固まって動きません。その一方で頭はフル回転してるんです。
「いやー、最悪のコトってそうそう起こらないから大丈夫!」
と自分に都合の良いように考え、ゆっくりと振り向きます。そして、窓を開けようとすると…
「!」
一挙に酔いは醒めます。そこにあったのは、まさしく最悪の事態です。
そうなんです。勝手に鍵がかかって部屋に入れません。
回転式の鍵で、中途半端に回っていたのかどうかは知りませんが、勢いよく閉めたせいで鍵が回転してロックされてしまったのです。
窓のすきまに何かを差し込んだりして、いろいろと部屋に入る手段を考えたりしたいのですが、そこはベランダです。「何か」があるはずもありません。
大声で助けを呼ぶにしても変な外国人が騒いでるくらいにしか思われません。ましてや夜中です。
どう考えてもベランダから部屋に入る方法はないようです。
早くも万策尽きました…
大脱出
仕方がないので、僕は意を決して、避難はしご(緊急脱出ツール)で外に脱出することにしました。建物を出て、外部に助けを借りるんです。
幸い部屋は4階だったので、なんとかなりそうです。
はしごにはハトのフンがついていましたが、そんなことにかまってる暇はありません。
少しでも早くこの状況を打破しなければ、明日の朝の宿題もどうなるかわかりません。もちろんそんなことを考えてる余裕すらありませんでしたが(笑)。
早速避難はしごで降りることにしました。
下の階に住んでいる人と顔を合わせることのないことだけを祈って、音をたてないようにそ~っと降ります。
ラッキーなことに下の階も、その下の階も不在だったみたいで助かりました。
どっからどう見ても不審人物ですからね(笑)。
最後に駐車場の屋根に降り立ちました。もちろん足の裏はハトのフンで気持ち悪いことこの上ありません。
ハトくらいなら大丈夫ですが、僕の体重を支えるのには心もとない屋根の強度です。
それでもなんとか屋根をつたって、地上に降り立ちました。
警備員は救世主
アパートには警備員がいます。普段はスマホで何かをしていたり、そうでなければテレビを見たりで楽しそうに仕事をしています(笑)。
そんな彼の日常に突如として裸足の外国人が現れたのです。彼でなくともびっくりします。
幸いなことに彼は僕の顔を覚えてくれたのですが、それでもびっくりして腰が少し引き気味です。
もちろん僕も焦ってるので、いつものように流暢な(笑)タイ語が出てきません。
ようやく状況を理解してくれた警備員がオーナーを電話で呼んでくれました。
オーナーが来るまでの間、建物の前にいるのは裸足の外国人と警備員の二人きりです。
悪いことをして捕まった外国人を警察に引き渡す図にしか見えません。
びっくりして、慌ててしまうという醜態をお互いに見てしまっているので、気軽に日常会話を楽しむという雰囲気にはとてもじゃないけどなりません。

スマホは手放せません。
真の救世主登場
それから何時間が経ったでしょう? やっとのことでオーナーが来ます。
気まずい空気を一気に払ってくれます。オーナーは
「飲みすぎた?」
とか何事もなかったかのように笑って聞いてきます。
この悪い雰囲気を壊す神の一言です。
本当はかなり飲んでましたが、一連の出来事のおかげですっかり酔いの醒めた僕はつい
「少しだけ…」
と答えたのでした。
その後、無事部屋に戻ることが出来ましたが、翌朝の宿題はやっつけ仕事になったのは言うまでもありません。
もちろんベランダに出るときは窓は開けっ放しです。
これが上層階には二度と住まないことを固く決意した物語です。
おわり
この物語の舞台となったアパートはこちらからどうぞ
